ディーゼルエンジンの開発 – 苦労の連続だった
ディーゼルエンジンとガソリンエンジン
ディーゼルエンジンと蒸気機関、オットー(ガソリンエンジン)エンジンの違いは?
軽油、重油、植物油で運転できる!
まあ、それも正しいのですが、
ディーゼルエンジンを発明したルドルフ・ディーゼルさんは、ワット、オットーと違い、
熱機関は理想的にはここまで効率が高められるはずという理論(カルノーサイクル )を大学で
リンデ教授より聴講して、その理想サイクルを探求したのです。
一方のワットー、オットーは悪い言い方をすれば、とりあえず地上にぐるぐる回転する動力機械を作ることでした。
そこが両者の大きな違いです。
ディーゼルエンジンから皆さんはどのようなことを連想しますか?
ディーゼルエンジンについて知人と議論したことがあります。
記憶を紐解くと以下のような言葉を思い出します。
ヤン坊・マー坊の耕運機、トラック、黒い煤、汚い、臭い、うるさい、ごつい、力強い、石原都知事、メルセデスのディーゼル車が日本上陸・・・
テレビのヤン坊・マー坊のCMはずいぶん長く続いています。
「・・・小さなものから大きなものまで動かす力だ!ヤンマーディーゼル・・・」
私は小さい頃、テレビが大好きでした(当時は白黒)。
わくわくしながら子供番組(ウルトラQ、ウルトラマン、エイトマンなど)を見ていました(世代がわかるね・・・)。
当時のテレビはよく故障しました。
故障すると私と弟がワンワン泣くので母が電気屋さんを呼びました。
テスターで調べて多くの場合真空管を交換・修理したことを覚えています。
真空管の在庫がないとき1週間ぐらいテレビが見られなくなりひどくがっかりした記憶があります。
大好きな子供番組が始まる前の夕食時にヤン坊・マー坊のCMは流れてきました(今でも同じ時間帯かな?)。
子供心に鮮明に記憶しています。
Googleで検索すると、このCMは1959年に始まり現在まで続いているそうです。
53歳?ですね。皇太子と同じ年です。
実はこの歌の中にディーゼルエンジンの特徴が現れています。
工学的な言い方をすると
「ディーゼルエンジンは小型機関のみならず大型機関でも成立する内燃機関」と言えます。
ガソリンエンジンは小型機関でしか成立しません。
つまり大きなシリンダ径(まあ50cmぐらい)のガソリン機関はないのです。
ガソリン燃焼とはガソリンの引火性を利用して火がついて燃え広がる層状燃焼です。
シリンダ径が大きいとクランクシャフトが約半回転する間にシリンダ内のガソリンがすべて燃えることができないのです。
一方、ディーゼルエンジンは急速圧縮して高温になった空気に着火性の高い軽油などの燃料を霧状に噴射して一瞬に爆発燃焼させます(拡散燃焼)。
ディーゼルエンジンは大きなシリンダ径でも燃焼が可能です。
また、多くの日本人(あえて日本人という言い方をいます)はディーゼルエンジンを「黒い煤を排出する汚いエンジン」と思っているようです。
その急先鋒は石原都知事ですね。
大都市からディーゼル車を規制して締め出し、不正軽油(硫黄分が多く含まれている軽油)撲滅作戦を展開しました。
その結果、日本の都市部からディーゼル車は姿を消しました(ヨーロッパの都市部では多くのディーゼル車が走っています)。
でも、ディーゼルエンジンはほんとに汚いのでしょうか?
いろいろとご意見はあるかもしれませんが、私の考えは
ディーゼルエンジンはガソリンエンジンよりはるかにクリーンなエンジンです。
私が仕事でドイツ、オーストリア、ベルギーなど数回訪れたとき、主要な駅の前には多くのタクシーが並んでいましたが、ほとんどがメルセデスのディーゼル車でした。
余談ですがヨーロッパの内燃機関の研究所のエンジニアに以下のような質問をしました。
「なぜ、ヨーロッパのタクシーはほとんどメルセデスのディーゼル車なのですか?
日本ではメルセデスベンツは高級車です。
メルセデスベンツのオーナーはお金持ちという印象があります。
タクシー会社はなぜそのような高級車を使用するのですか?」
彼曰く、
「実はメルセデスのディーゼル車は一番安い選択なのです。
ディーゼル車はガソリン車より燃費が優れています。
またメルセデス車は50万km走る耐久性があります。
他社のディーゼル車は30万kmでくたびれてしまいます(注:これは当時の話です)。
それにタクシー会社のようにメルセデス車を一度にたくさん購入すると値引きが大きいのです。
つまり、彼らにとってメルセデスのディーゼル車を購入することが一番賢い選択なのです。
しかもディーゼル車はクリーンです。
ヨーロッパでは不正改造したディーゼル車(黒煙をもくもく排出する車)は警察につかまり罰金を科せられます。」
ディーゼルエンジンがなぜクリーンなのか?
ひとつの理由として、ディーゼルエンジンは燃費がよいので地球温暖化に寄与する有害ガスCO2の排出量が少ないのです。
また最近のエンジン適合により黒煙の排出量が大幅に減ったこともあげられます。
さて、ディーゼルエンジンのメリットばかり述べてきましたがデメリットもあります。
ガソリンエンジンに比べて燃焼圧がはるかに高いので騒音が大きく、燃焼圧に耐えるため頑丈な構造にしなければなりません。
高い圧力の燃焼ガスを密封する必要があります。
各部の摩耗対策など信頼性を向上させるためさまざまな工夫が必要です。
また排気も臭い(特に低温時)ですね。
以上述べたことなどを比較すると以下のようになります。
エンジンの大きさ
ガソリンエンジン
数10mmの小型機関も可能だが大型機関は不可
シリンダ径は100~110mmが限界と言われている
ディーゼルエンジン
数10mmの小型機関から大型舶用エンジン(テニスコートより広い大型機関)まで成立
エンジン回転数
ガソリンエンジンは高速、ディーゼルエンジンは低速
圧縮比
ガソリンエンジンは8-10程度
ディーゼルエンジンは15-20程度(ガソリンエンジンの約2倍)
使用燃料
ガソリンエンジン
ガソリンなど燃えやすい燃料を使用、オクタン価の高い燃料を使用
ディーゼルエンジン
軽油、重油(アスファルトのような劣悪C重油も可能)、植物油など
セタン価の高い燃料を使用
燃焼
ガソリンエンジンは予混合燃焼、層状燃焼、燃焼の引火性を利用
ディーゼルエンジンは拡散燃焼、燃料の着火性を利用
排出ガス(エミッション)
ガソリンエンジン
燃費が悪いのでCO2の排出量が多い
NOX、HCなどの排出量も多いので排気管出口に3元触媒を装着するのが常識
黒煙を排出しない
ディーゼルエンジン
燃費がよい。すなわちCO2の排出量が少ない
NOX、HCなどの有害成分は少ないがガソリンエンジンのように3元触媒が使えないためNOX、HCはガソリンエンジンより多かった。
ただし、技術の進歩により最近では大幅に低減
黒煙を排出するが技術の進歩により最近ではほとんど問題にならない
振動騒音
ガソリンエンジンはディーゼルより静か
ディーゼルエンジンはうるさい
排気臭
ガソリンエンジンは排気臭が少ない
ディーゼルエンジンは排気臭が強い(特に低温時)
構造・重量
ガソリンエンジンはディーゼルより華奢・軽量
ディーゼルエンジンは頑丈で重い
燃料供給系統(これ重要)
ガソリンエンジンはキャブレター、EFI、燃料噴射(直噴ガソリンGDI)
ディーゼルエンジンは精密な列型・分配式噴射ポンプ・ノズル、コモンレール噴射系など
価格
ガソリンエンジンはディーゼルより安い
ディーゼルエンジンは高い(噴射系が高価)
ディーゼルエンジンの開発はガソリンエンジンより大変です。
ルドルフ・ディーゼルは熱力学的見地に立ちエンジン燃焼を理論的に深く考察しました。これからディーゼルエンジンの生みの親、ルドルフ・ディーゼルの足跡をたどることにします。